公開日:2001.04.03 最終更新日:2020.07.20
- 場所
- 犬山市余坂「宝袋」の下山
- コメント
我が輩は猫である。故あって事情は話せぬが、この犬山城下に住んでいるのではない。しかし、かれこれ100年になるだろうか、桜の咲くこの時期になるとここに来るのである。
我が輩は魚が好物である。いやいや、かつては猫族すべてが、そうであっただろうに、近頃は軟弱なヤツが多くなり『きゃっとふーど』とかいうものをあてがわれておる。
我が輩はグルメ猫であるので、生きのいい魚が食いたいのある。で、わざわざ出張しておるのだ。
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毎年の楽しみは、まずここ余坂の水引にある恵比寿が抱えた大きな鯛である。しかし、鮮度では枝町にはかなわないので、焼いて食うことにしておる。枝町では恵比寿のからくり人形が釣ったばかりのピチピチした活きのよい鯛が食える。刺身にすると絶品なのである。
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だが、鯛ばかりでは飽きるので、次は本町で鯉を食うのが恒例になっておる。何せ、水引に沢山の鯉が泳いでいるので、無くなる心配などしなくてもよいのがリッチなのである。聞けばこれは越前蟹岸駒が書いたらしい。
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このグルメメニュー、我が輩が長年かかって調べ上げたのだが、去年どこかの野良猫が我が輩の真似をしておった。
新町の車山が船の形をしており浦島が漁師だと聞きつけ、しばらく釣り上げるのを待っておったらしい。愚か者め、浦島は釣りが嫌いな漁師なのを知らなかったようである。我が輩の調査では、乙姫といちゃつく事はあっても、魚を釣ったためしはないのが浦島なのである。
しかもこの野良猫、よほどの間抜けなのか、それとも腹を空かしておったのか、玉手箱の煙を見て『あっ!サンマッ!』と叫んで、玉手箱に飛びつきおった。可哀想に老猫になって、トボトボどこかに行ってしまったがな。。。。
じゃが、我が輩も、若い頃はドジを踏んだものよ。魚屋町というからヨダレを垂らして行ったら、魚なぞありゃせん。坊さん人形に一喝されて一目散に逃げてきた苦い想い出があるのじゃ。外町の珊瑚も堅くて食えたものじゃなかったのう。
しかし、毎度、鯛と鯉ではそろそろ飽きてきたわい。たまにはトロなんぞ食いたいものじゃ。どこぞの町内でマグロの水引幕を新調してくれんかな。ウニでもええぞ!おっと、文体を夏目漱石で決めたかったのに、いつの間にか、ただの爺さんの思い出話口調に変わってしまった。まあ、ええわい!

